第27話 バリカンとまゆげ
少し前のブログにも書いたが、髪の毛が硬いせいか、よくバリカンが壊れる。先日も切っている途中に動かなくなってしまい、息子のバリカンを借りて仕上げた。俺のことをウイルスか何かと勘違いしている嫁は、息子のバリカンを僕が使う事を嫌がっていた。その動きにイラッとしたので、息子のバリカンを洗わず無造作に洗面台に放置して俺はバイクで出勤した。平成の終わりを感じる風が頬をかすめ、坊主にしたばかりの頭皮はヘルメット中で湿った。
昨日はベトナムで3台目となるバリカンを買いにいつもの電気屋に行った。平日という事もあってか、お客さんより従業員の方が多いことをエスカレーターで気にしながら最上階に向かった。最上階の小さなスペースに4種類のバリカンがあり、どれにしよう迷っているとスタッフさんがプレッシャーをかけてきた。そのプレッシャーは無言で近くにたたずむというパターンのマークだったので、背中で「俺は坊主のプロだ。」と言わんばかりに4種類のバリカンを触っては首をかしげるという動きで応戦した。
普段なら一番安いやつを買うのだが、隣にある充電式のものに心が動かされていた。「世界はこれからAI、人工知能時代なのに、俺はコードレスのバリカンさえ買ったことがないなんてマズイ!時代に取り残される。」
もう気持ちを抑えることなんてできなかった。
意気揚々と帰宅。
お侍さんが新しい刀を手にすると試したくなる。まさにそんな気持ちだった。
新しいバリカンはなめらかで、いつもの半分ほどの時間で作業が終わった。定食食べたけど、まだちょっと食べたい時と同じ感覚が、洗面台の僕にそろりそろりと近ずいてきた。
まゆ毛しか残されていない。それはもう偶然でも運命でもない、必然だった。
自分に嘘なんてつけるはずがないのだから。
恐るならやるな、やるなら恐るなら。